船は誰のもの?
こんにちは、いつきです。
今日は船は誰のものかということについて書いていきたいと思います。
この記事で知れること
- 船には船の持ち主であるオーナーとオペレーターが存在する。
- オーナーとオペレーターは用船契約で結ばれている。
- 用船には、裸用船と定期用船がある。
- このような整理をもってWAKASHIOのケースを振り返ると、見方が変る。
えっ、船は船を動かしている人の物でしょと思われるかもしれませんが、実際は案外そうではありません。
日本商船隊について言えば、約55%が船を誰かから借りている(難しい用語で用船(or 傭船)と呼びます)形態を採って運航されています。
一体どういうことなのか。解説します。
オーナーとオペレーター
まず、一口に”船会社”と言っても、大きく二種類の会社に分けられます。
- オーナー: 日本語で言うと船主です。その名の通り船を持っている人たちのことです。
- オペレーター: こちらは日本語で運航者と呼んだりしますが、船を動かしている人たちのことです。
日本の船会社でいくと、日本郵船や商船三井といった会社は、いわゆる船を動かして運賃で売り上げを立てるオペレーターに分類されます(一部オーナー機能もあり)。一方で、オーナーはいわゆる自分たちの持っている船をオペレーターに貸して(用船して)、用船料で収益を立てることを生業としています。
従って、オーナー業者は船を所有しますが、オペレーターは自分たちで船を所有して運航する場合もあるが、オーナーから借りた船を運航する場合もあるという状態が発生します。
船の保有形態
ここまでのところで、船は大きく分けて、所有するか、借りるかの二つの形態があることをご理解頂けたと思いますが、もう一歩踏み込んでお話をすると、更に三つの形態に分けられます。
- 所有(Own)
- 裸用船 (Bare Boat Charter –> BBCと呼んだりします)
- 定期用船 (Time Charter –> TCと呼んだりします)
一番上の所有は分かりやすいと思いますが、裸用船と定期用船は耳慣れない言葉かと思います。両方用船ではあるのですが、簡単に言うと、裸用船は乗組員手配等の船舶管理なしで船を借りる契約、定期用船は乗組員付きで船を借りる契約のことだと覚えて下さい。
簡単にまとめるとこのような感じです。
種類 | 保有形態 | 運航 | 船舶管理 (乗組員手配) | 船 |
所有 | 所有(Own) | オペレーター | オペレーター | オペレーター |
用船 | 裸用船(BBC) | オペレーター | オペレーター | オーナー |
用船 | 定期用船(TC) | オペレーター | オーナー | オーナー |
この整理をより身近なものに置き換えると、所有=自家用車、裸用船=レンタカー、定期用船=タクシー/ハイヤー、のようなイメージで理解して頂くと分かりやすいかと思います。
種類 | 保有形態 | 運行 (行先の設定) | ドライバー | 車 |
所有 | 自家用車 | 自分 | 自分 | 自分 |
用車 | レンタカー | 自分 | 自分 | レンタカー会社 |
用車 | タクシー | 自分 | タクシー会社 | タクシー会社 |
保有形態の割合
日本海事センターの資料によれば、日本の商船隊に限定した場合、オペレーター自身が船を所有して運航しているケースは約45%(下表①+②)。逆に言うと半数以上の55%は海外の船会社を含め、オーナーから用船して運航しているということになります(下表③+④)。
少し意外に感じられる方も多いのではないのでしょうか。
WAKASHIOのケース
ここで今一度WAKASHIOのケースを振り返ってみましょう。
WAKASHIOとは株式会社商船三井という船会社が、OKIYO MARITIME社という船会社から借りて運航していたばら積み船でした。
この商船三井とOKIYO MARITIMEとの関係について、商船三井はWAKASHIO事故に関する特設ページにて、WAKASHIOは商船三井の用船であった旨を明記しています。
“当社がチャーターしていたばら積み貨物船がモーリシャス共和国で座礁による油濁を起こし、・・・(中略)・・・
当社は、船主との間における用船契約において本船を利用していた関係者として、人員の派遣や流出油回収用の資材提供など、現地のニーズに沿った具体的な支援を通じ、油濁の早期除去と今後の環境回復や地域社会への貢献に注力して取り組んでまいります。"
ここから読み取れることは、本事故の契約上の責任はオーナー(OKIYO MARITIME)にあるのだけれども、本船を利用していた関係者だったので、貢献したいということです。
一見、責任回避の様な言い回しに思われる方もいるかもしれませんが、これはよくよく考えれば当たり前のことです。もしあなたが乗っていたタクシーが交通事故を起こしたとしたら、乗客のあなたは、その交通事故の責任を負うでしょうか。恐らく、自分は乗客であって、この事故には直接関係ないと言うのではないかと思います。
このような見方をすると、乗客ではあったが、関係者として精いっぱいの支援をしたいとする商船三井の対応は、契約関係を越えた社会的責任の遵守に視線を合わせた対応ということになります。
どうでしょう。少しこの事故の見方が変ってきたのではないでしょうか。
関係者の正確な把握が常に大切
このように、船の持ち方ひとつでも、関係者は複数いて、時に複雑です。
そしてそのような事実が表立って説明されることが少ないため、どうしても目立つ部分だけが取り上げられがちなのですが、異なる立場の人たちが、異なる役割を担って回っているのが海運の世界です。
関係者の立場を正確に把握することで、時にニュースの見方も変わってきますので、ぜひ注意してみて下さい。
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